国際的ビーチリゾート地として東南アジア屈指の地位を、依然、堅持するインドネシア共和国のバリ島。
しかし、近隣諸国の他の競合地域の追い上げに加え、コロナパンデミックによる国際観光市場の消失によりバリ島の経済は既に壊滅的な影響を受けている。
国全体の観光収入のかなりの部分を稼ぎ出すバリ島が喘いでいる危機だが、インドネシア政府とて黙って手を拱いている訳ではないようだ。

報道によると同国政府は、新たにバリ島にてIT系技術者やデジタルノーマド、またリモートワークに従事する外国人向けに、新たな中長期滞在を認める為の法整備に着手していると政府高官が明らかにしているという。

いわゆるデジタルエイジの勤務居住地にとらわれない新しいワークライフスタイルを実践するデジタルノーマドを巡っては、非公式ながら各国で既に始まってはいる。

(最近は、フィリピンのセブ島、ベトナムの主要都市、我が国では種子島等をよく耳にする)

しかし、急発展する国際的な通信環境の整備とITテクノロジーにより、労働と生活の境が曖昧化する中、既存に現有する各国の滞在資格の実体に対し、実際の活動が必ずしも厳密な意味で合致しない状況が生まれていた。

(実際は国境を超えた頭脳労働だが、納税問題も含めても黙っていれば当局には察知されにくいだろう。。普通は。。)

そんな事もあり、実数はさておきデジタルノーマドの数は、公式な数の上では依然として少数に留まり、滞在資格上の法的根拠の弱い物であった。
例え、一般的で一番簡単な観光滞在資格を更新し続ける方法も、長期となれば安定性を欠き、万が一、資格外活動が見つかれば東南アジアでは快適ノーマドライフも場合によっては悪夢に早変わりするって寸法だ。

好調な訪バリ観光数をマークしているバリ島。しかし、近年、滞在資格外の就労者の取り締まりに力を入れている。特に観光ビザでの就労を疑われると後で面倒なことになる。。このへんは無難にやっておいた方が身の為だ。画像は連日混雑するジンバラン地区の入国管理事務所

そこで政府は、実質ゼロまでに落ち込んだ国際的な観光客数の早期回復と持続的な観光需要の創出、適正な滞在資格を付与しつつ、適法で柔軟な出入国管理の在り方を期待してポスト・コロナを見据えたニューノーマルに向けた法整備を急いでいるという。

特にコロナパンデミック後の観光需要、航空需要と供給の回復には不確実性が避けられない。
これに加えて競合する観光地との競争もあり、少しでも優位性を持つには既存のマスツーリズムからの脱却も必要だと判断したのであろう。

観光客の姿が消えたウングライデンパサール国際空港の出発カウンター。ここがまた観光客で賑わうのはいつになるのだろう?

バリ島を巡っては、他の東南アジア諸国と同様に少なくとも年内までの外国人観光客の受け入れは、ほぼ無いだろうと発表されている。
よって消失したままの国際的な観光客に代わり、7月31日から解禁された国内観光需要の受け入れに舵を切っている。

そしてその計画が功を発して、現時点までに充分な数の国内観光需要を保持していることが報告されているとある。
中でもその内実にインドネシア特有の事情が含まれていることが興味深い。
世界最大のイスラム人口を抱えるインドネシアだが、現在はウムラと言われるイスラム教徒のメッカ巡礼の季節。。(例年、8月10日前後らしい)

世界第4位の人口大国のインドネシア共和国の人口が2億7千万あまり?
その国民の9割以上がイスラム教徒と言われ、急増する新興中産階級内に包含するメッカ巡礼の旅行需要が、今年はそっくりそのまま国内に残っているのだ。

政府の試算によると、その規模は50-100万人にのぼるという。
これに加えて元から現存していた本来の潜在的な海外旅行需要が合わさると、その規模はざっと150億ドル相当と試算されているとある。
政府はその旅行需要の70%余りを国内旅行市場に取り込むことを目標としているという。

以上は外国人の我々にとっては全く馴染みのない宗教的な事柄ではあるが、瀕死のバリ島にとっては不幸中の幸い。
彼等にはなんとかこの逆境を乗り越えて貰い、ポストコロナ後の新しい枠組みの中で多様化した新しい滞在スタイルが提案され、我々がまた一日も早く、あの人懐っこいバリの人々に歓迎される日が来ることを願って止まない。